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東京高等裁判所 昭和52年(ラ)475号 決定 1977年11月08日

抗告人 林孝司

右訴訟代理人弁護士 山本栄則

渡瀬正員

飯田秀郷

岩出誠

木村和俊

相手方 関東混合機工業株式会社

右代表者代表取締役 金辺勝男

<ほか二名>

主文

本件抗告は、いずれもこれを棄却する。

抗告費用は、抗告人の負担とする。

理由

本件抗告の趣旨は、「原決定を取消す。取締解任請求の本案判決確定に至るまで相手方金辺勝男の相手方会社取締役兼代表取締役としての職務執行を停止する。株主総会決議不存在確認請求訴訟または取締役解任請求訴訟の本案判決確定に至るまで相手方岩本久の相手方会社取締役としての職務執行を停止する。右各職務執行停止期間中、適当な者をして右取締役兼代表取締役及び取締役としての職務をそれぞれ代行させる。」との裁判を求めるというにあって、その理由とするところは、別紙記載のとおりである。

一  よって審按するに、本件記録によると、相手方会社は、昭和二四年五月三一日林正夫らによって設立された製菓用混合機の製造販売を目的とする資本金一、〇〇〇万円、発行済株式を二〇万株(一株の額面金五〇円)とする株式会社であって、同四三年一月増資の際相手方金辺において六、〇〇〇株の株式を引受けて所有するに至ったほか、林正夫がその妻林はつ、抗告人ら名義のものを含めてその余の大部分を所有していたが、同五〇年四月三日右正夫の死亡に基づく遺産相続によって抗告人がこれを所有するに至ったこと及び相手方金辺、同岩本は、抗告人、手塚勇とともに同五二年三月二六日の定時株主総会において、いずれも相手方会社の取締役に選任され、次いで相手方金辺がその後開催された取締役会において、相手方会社の代表取締役に選任された事実を、一応認めることができる。もっとも、右定時株主総会において、手塚勇、相手方岩本、堀口道夫、手塚茂、野中宏らが議決権を行使したであろうことは十分推察し得るところ、林正夫から右同人らに対する相手方会社の株式譲渡を承認する旨の同五〇年三月二〇日付取締役会議事録を措信できないことは、後記の経緯からして明らかであり、他に右同人らが林正夫から右株式を譲り受けた事実を認めるに足る資料も存しないから、右定時株主総会が非株主が参加したとして瑕疵を帯びるものであったとしても、商法第二四八条所定期間内に右株主総会決議取消の訴が提起されたことは、本件記録上看取することができないから、結局右総会決議は有効に確定したものとしなければならないので、これをもって右認定を左右することはできない。

二  そこで、法令違反などの有無について考察するに、本件記録によると

(一)  相手方会社の代表取締役の地位にあった相手方金辺は、いずれも取締役会を開催したとして、林正夫死亡前の昭和五〇年三月二〇日出席者を林正夫、相手方金辺、抗告人、手塚勇及び相手方岩本とし、副社長設置の件、従業員持株制度設定に関する件、株式譲渡に関する承認の件、すなわち林正夫の所有する相手方会社の株式四三、〇〇〇株を、取締役手塚勇に対し一二、〇〇〇株、同岩本久に対し一〇、〇〇〇株、従業員堀口道夫に対し八、〇〇〇株、同手塚茂に対し八、〇〇〇株、野中宏に対し五、〇〇〇株を譲渡することを承認したこと及び林正夫、相手方金辺を代表取締役に選任する旨、次いで右林正夫が死亡した同年四月三日出席者を相手方金辺、手塚勇、抗告人及び相手方岩本とし、抗告人を代表取締役に選任する旨、さらに同年一二月二四日出席者は相手方金辺、抗告人、手塚勇及び相手方岩本とし、抗告人の代表取締役辞任を承認した旨の各議事録を相手方岩本らと作成したが、そのいずれの場合においても、取締役会の招集通知をなさないのはもとより、取締役会すら開催しなかったこと。

(二)  相手方会社は、昭和五〇年三月二〇日の定時株主総会において、財務諸表承認の件及び役員改選の件、すなわち取締役として林正夫、相手方金辺、手塚勇、抗告人及び相手方岩本を取締役に選任する旨、同年一二月二四日の臨時株主総会において、定款中共同代表取締役に関する規定を削除することなどが議決されたとして、その旨の各議事録を作成したが、右いずれの場合においても、株主総会の招集通知がなされなかったばかりでなく、株主総会も開催されていないこと。

(三)  相手方金辺は、取締役会の承認を受けずに、昭和四九年八月ころから自己所有の駐車場の一部(一台分、ただし同五〇年一二月から三台分)を相手方会社に賃貸し、また、取締役などの報酬額の決定につき取締役会の決議及び株主総会の承認を得なかったこと。

以上の事実を、一応、肯認することができる。なお、抗告人は、相手方金辺、同岩本に背任、業務上横領などの不正行為が存する旨主張するが、相手方ら提出の疎明資料を仔細に検討しても、抗告人提出の疎明資料によっては、いまだそのような事実を肯認することはできない。

右の事実によれば、相手方会社の代表取締役の地位にある相手方金辺、取締役の地位にある相手方岩本には、法令に違反する重大な事実があったものということができる。

三  進んで急迫性の有無について検討する。本件記録によると、相手方会社は、もと林正夫の個人企業を組織変更して設立されたものであって、同人が発行済株式二〇万株の大部分を所有する、いわば一人会社に類するものであったところから、従来取締役会、株主総会は一度も開催されたことがなく、右林正夫が相手方金辺らと相談のうえ決定したところに従って取締役会議事録、株主総会議事録を作成し、これに基づいて所要の手続をとり、格別の問題も生じなかったところから、相手方金辺も、林正夫の死亡後前示のとおり、取締役会、株主総会を開かずに相手方岩本らとそれぞれの議事録を作成するに至ったものであるが、抗告人によってその非を指摘問題とされた後は、その手続を厳格に履践している事実を、一応、肯認することができ、これに相手方金辺、同岩本が昭和五二年三月二六日の定時株主総会において、いずれも取締役に選任され、右株主総会の決議が有効に確定していること及び相手方金辺が取締役会において代表取締役に選任されたことなど前示事実を総合すると、相手方金辺、同岩本の職務の執行を停止しなければ、相手方会社が差し迫って蒙るであろうところの損害を防止できないこと、換言すれば急迫な事情を肯認することはできない。

それならば、抗告人の本件仮処分申請は、結局急迫な事情につき疎明を欠くこととなり、もとより保証金をもってこれに代えることは相当でないから、これを却下した原決定は相当であって、本件抗告は理由がない。よって、本件抗告は、いずれもこれを棄却し、抗告費用を抗告人に負担させることとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 岡本元夫 裁判官 鰍沢健三 長久保武)

<以下省略>

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